
トロピカーリア建築をかんがえる~ブラジル建築レクチャーシリーズ(全5回)
【開催概要】
時期:2025年5月-9月/日曜日夜開催
(第1回:5/18、第2回:6/1、第3回:7/6、第4回:8/3、第5回:9/7)
時間:17:00-20:00(16:45 開場)
会場:theca(コ本や内)
登壇者:トロピカーリア建築研究会メンバー x 各回ゲスト
料金:
会場参加チケット: 2,000円(学生1,500円)
アーカイブ映像配信:2,000円
会場参加全5回通し券 9,000円(学生6,500円)
映像配信全5回通し券 9,000円
* 「会場参加チケット」にアーカイブ映像配信は含まれません。
チケット:https://tropicalia2068.peatix.com
WEB:https://honkbooks.com/tropicalia2068/
定員:20名
主催:コ本や honkbooks
企画:トロピカーリア建築研究会
【趣旨】
私たちトロピカーリア建築研究会は昨年の9月に2週間ほどブラジルに滞在し、5つの都市と50件ほどの建築を調査・見学してきました。この調査の背景には、近代以降のブラジル建築を問い直すことによって、新たにポスト・ポストモダンと位置づけられるような建築のありかたや設計の方法論を探りたい、という動機がありました。
特に1960年代以降の音楽、映画、演劇、前衛芸術の文脈において起こった「トロピカーリア」と呼ばれるブラジルでの文化運動と、その支柱となった食人思想を参照項とすることで、本当に「ブラジルにポストモダンはなかった」のかといった問いを中心に、これまで日本では知られてこなかったブラジル建築の魅力を新たに発見することを目的としています。
本レクチャーシリーズは、各回にゲストを招き、研究会メンバー各々の興味・関心に引き寄せたトピック毎に議論、知見を参加者とともに深めていく機会とします。
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* 2月にレクチャーシリーズの基礎知識を共有する機会として開催した、
オープニングセッションの概要・詳細はこちらから
https://honkbooks.com/tropicalia2068-op/
* オープニングセッション・アーカイブ配信の販売はこちらから
https://tropicalia2068-op-archive.peatix.com/
* 本調査研究は窓研究所の2022年度助成事業の支援で実施しました。
【レクチャー概要】
目次
第1回(5月18日[日])「ニーマイヤー・カリカリベーコン・ガレリア」
ゲスト:福島加津也(建築家 | FT Architects / 東京都市大学教授)
(司会:寺田慎平)

オスカー・ニーマイヤー(1907-2012)はブラジルモダニズムを代表する国家的建築家であり、ブラジル調査の期間中もわれわれは数多くの作品を見学した。まずは彼の建築を体感して感じたいくつかの要素を分析し、その分類をカリカリベーコンやポンデケージョといった(ブラジルの伝統的な軽食)に準え、その組み合わせとして説明してみたい。
(その単純な形式性がブラジル建築に独自性を与えてきたともいえるのではないか。)
それから、サンパウロの古くからの中心市街地 – セントロにある、ガレリアと呼ばれる商業ビルを紹介しながら、ニーマイヤーの商業建築について考えてみたい。というのも、彼の国家的 – モニュメンタルな建築が、セントロという都市性やガレリアという商業性を通じてどのように変容しているのか、確認してみたいし、何よりもバウハウスを代表する建築家、マックス・ビルが強烈に批判したニーマイヤーの建築がここセントロに位置する商業施設であるからである。
(西洋のモダニズム建築家が1950年代当時理解できなかったものを、東洋のわれわれはどのように再解釈できるのか。)
こうした議題を、建築事務所を主宰しながら、『ホルツ・バウ 近代初期ドイツ木造建築』(2020年)『ex-dreams もうひとつのミッドセンチュリーアーキテクチャ』(2023年)といったリサーチベースでユニークな書籍を作り続けているFT Architectsの福島加津也氏をお呼びし、仮説をたて、リサーチすること、それから本を作ること、そして設計まで、縦横無尽にディスカッションをしてみようと思う。
・福島加津也(ふくしまかつや)
福島加津也+冨永祥子建築設計事務所/東京都市大学建築学科教授
建築家。1968年生まれ。1990年武蔵工業大学(現東京都市大学)建築学科卒業。1993年東京藝術大学美術研究科修士課程修了。
1994年~2002年伊東豊雄建築設計事務所。現在、東京都市大学建築学科教授。
2003年から福島加津也+冨永祥子建築設計事務所を、2020年からガデン出版を主宰し、
「工学と美学」をテーマに建築設計と研究、出版と教育を行う。
主な建築作品に中国木材名古屋事業所、木の構築/工学院大学弓道場+ボクシング場、高床の家など。
主な著作にHolz Bau、ex-dreamsなど。
主な受賞にJIA新人賞、日本建築学会賞、DAM ARCHITECTURAL BOOK AWARD、日本建築学会著作賞など。
http://ftarchitects.jp/
第2回(6月1日[日])「熱帯建築からトロピカーリアの建築へ」
ゲスト:岩元真明(建築家 | ICADA / 九州大学准教授)
(司会:印牧岳彦)

「熱帯建築(tropical architecture)」という言葉は、単純に建築の建つ地域を指し示す透明・中立な用語ではない。近年のこのトピックに関する研究が指摘するように、そこにはとりわけ第二次世界大戦後のポストコロニアルな状況のなかでの、西洋からの新植民地主義的な眼差しもまた含意されているのである。
一方で、建築以外の分野に目を向けてみたとき、この「熱帯(tropical)」というある種のステレオタイプの形容に対し、それを逆手に取った対抗的な文化形成の動きもあったことに気づく。もともとはブラジルの芸術家エリオ・オイチシカによる作品名に由来し、その後同国における音楽の分野で活発化した「トロピカーリア」の運動は、まさにそうしたもののひとつではないだろうか。この運動に影響を与えた1920年代の「食人宣言」に見られるように、そこに見られる西洋文化への態度は、たんなる「影響」や「受容」には還元されない、より暴力的な「摂取」や「消化」の傾きを持つものである。
「トロピカーリアの建築」と呼ばれるものがもしあるとすれば、同様に「熱帯建築」という(西洋的な)カテゴリーを脱臼し、組み替えるような動きこそがその特徴になるのかもしれない。今回のレクチャーでは、この春にカンボジアの建築家ヴァン・モリヴァンを扱った著書『ヴァン・モリヴァン 激動のカンボジアを生きた建築家』(millegraph、2025)を出版された建築家の岩元真明氏をお迎えして、ブラジルだけでなく東南アジアなどの地域にも視野を広げつつ、建築における「熱帯」の問題から「トロピカーリアの建築」の可能性を考えてみたい。
・岩元真明(いわもとまさあき)
ICADA / 九州大学准教授
建築家、九州大学准教授、博士(工学)。1982年 東京都生まれ。
2006–07年 シュトゥットガルト大学軽量構造デザイン研究所(ILEK)学術研究員。2008年 東京大学大学院修士課程修了。
2008–11年 難波和彦・界工作舎勤務。2011–15年 ヴォ・チョン・ギア・アーキテクツ、パートナー。
2015年– ICADA共同主宰。2025年– 合同会社岩元設計室主宰。
建築設計とアジアの近現代建築研究に取り組む。
著書に『ヴァン・モリヴァン 激動のカンボジアを生きた建築家』(millegraph、2025)、
共訳書にロベルト・ガルジャーニ『レム・コールハース|OMA 驚異の構築』(鹿島出版会、2015)。
http://icada.asia/
第3回(7月6日[日])「バロック的なるもの:寓喩と偶有」
ゲスト:向山裕二(建築家|ULTRA STUDIO)
(司会:小南弘季)

ブラジルの建築家たちが、その「豊穣」な環境に住まうがゆえに、建築の構想の基盤となる自らの世界モデルを、眼前に存在する景観、ランドスケープに求めているのではないかと夢想することは容易い。ポルトガルから流れ着いたバロックの伝統は、のちに飛行機に乗ってやってきた近代建築の思想によっても塗り替えられず、しばしばブラジル固有の佇まいをもってランドスケープと一体化した建築のありようを我々に提供してきた。広義のランドスケープ・デザインという観点からブラジル建築を解釈することで、師弟関係やアカデミックな文脈、あるいは社会的背景とも異なる、視覚文化としての都市空間が有する「偶有性」と「寓喩性」のうちに、ブラジルの建築家たちに受け継がれてきたバロック的なる精神をみることが可能ではないか。
ベロ・オリゾンテではオスカー・ニーマイヤーとホベルト・ブルレ・マルクスの協働による人工湖を舞台にした曲線と平面表現の実験を、ブラジリアではルシオ・コスタによる自動車道とニーマイヤーの彫刻的建築を用いた神話の捏造を、リオデジャネイロではブルレ・マルクスによる沼地を前提とした前世紀の都市改造の継承と転用を、サルヴァドールではリナ・ボ・バルディによる窓と庭を用いた都市風景の輸送を、アングラ・ドス・レイスではパウロ・メンデス・ダ・ホッシャによる筐体を用いた様相の内部化を、サンパウロ/ジャルディンズではエデュアルド・ロンゴによる球体とそのニッチがもたらす都市に対する軽さと快適性の獲得をみた。
以上の変遷を、大地を喰らい風景を構築することから、風景を喰らい傍流に佇むことへと、その立場を変えていったブラジルの建築家たちのバロック的精神の流れそのものであると考えることはできないだろうか。
本レクチャーでは、バロック思想を切り口にして「寓喩」と「偶有性」概念を整理し、景観理論あるいはランドスケープ・デザインへの適応を試みる。そして、建築デザインを通して空間における「シンボリックなもの」「象徴性」の重要性を唱える向山裕二氏(ウルトラスタジオ共同主宰)をお招きし、本来対称的な概念である「寓喩」と「象徴」の相違点と類似点について、ブラジルの建築とランドスケープを参照しつつ議論することによって、建築および都市空間の読解と記述、生成の可能性について考えたい。
・向山裕二(むかいやまゆうじ)
ULTRA STUDIO
1985年広島県生まれ。2008年に東京大学工学部建築学科卒後、渡邉健介建築設計事務所に勤務。2011年、スイス連邦工科大学チューリッヒ校交換留学。2012年、クリスチャン・ケレツにてインターンシップ。2013年に東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。2015年、ドレル・ゴットメ・タネ・アーキテクツ勤務。2020年より上野有里紗、笹田侑志とウルトラスタジオを共同主宰。
https://ultrastudio.jp/
第4回(8月3日[日])「リナ・ボ・バルディの有機性と遊戯性」
ゲスト:大庭早子(建築家 | 大庭早子建築設計事務所)
(司会:杉山結子)

建築家リナ・ボ・バルディはブラジル移住後まもない1951年に「洗練の無さ、粗野な感じ、のんきな取り込みと変容こそがブラジルの現代建築の強み」だと書いている。ブラジル北東部のバイーア州都サルヴァドールにリナが滞在していた頃、のちのトロピカーリア運動の中心人物であるジルベルト・ジル、カエターノ・ヴェローゾがサルヴァドール連邦大学におり、リナが館長を務めるバイーア近代美術館での助手が、彼らに影響を与えた若き映画監督グラウベル・ローシャであったことを踏まえると、リナは間接的にトロピカーリアに影響しているとも言える。そう考えれば冒頭のテキストは一層示唆的であり、「取り込みと変容」という表現に、食人思想と共通したものを見出せる。
今回の調査でリナの建築を訪れ、改めてその手つきのシンプルさに驚かされた。リナの再評価の要因として現代的な設計や思想があるが、それは裏を返せば当時の主流から離れていたということだ。何がリナに違う道を歩ませたのか、また逆に、主流と共通する部分はどこか、「有機性」と「遊戯性」というキーワードから読み解いてみたいと思う。
今回のレクチャーでは、サンパウロに滞在し、リナ・ボ・バルディと共に働いていたマルセロ・カルヴァーリョ・フェハス氏の事務所に所属していた建築家の大庭早子氏をお招きし、リナ・ボ・バルディのこと、ブラジルの都市や暮らしについてお話を伺ってみたい。
・大庭早子(おおばはやこ)
大庭早子建築設計事務所
1983年佐賀県武雄市生まれ。2006年日本女子大学家政学部住居学科卒業。2008年横浜国立大学大学院/Y-GSA修了。
2008〜11年長谷川豪建築設計事務所勤務。2012〜15年にサンパウロ(ブラジル)に滞在し、Nitsche Arquitetos、Brasil Arquiteturaに勤務。
帰国後2015年に大庭早子建築設計事務所設立。
https://hayakoarqui.com/
第5回(9月7日[日])「食人と参照」
ゲスト:居村匠(美学・芸術学 | 秋田公立美術大学)
(司会:杉崎広空)

トロピカーリア運動が当時のブラジル建築に影響を及ぼしていたのではないかとの仮説のもと、ブラジルの5つの都市を巡り、リナ・ボ・バルディやパウロ・メンデス・ダ・ホッシャ、エデュアルド・ロンゴらの設計した建築を調査した。この運動は1960年代後半にブラジルで始まり、その思想的基盤としてオズワルド・ヂ・アンドラーヂの『食人宣言』がある。ここでの食人とは、実際に人を食べることではなく、文化的、哲学的に他者を自己の中に取り入れ、自己を改変する様を象徴しているが、トロピカーリアはその思想をもとに、文化の混交が進む中で自由な表現を目指す運動だった。
訪れた建築の中でも特に、リナ・ボ・バルディのCasinhaやパウロ・メンデス・ダ・ホッシャのCasa Gerber、エデュアルド・ロンゴのCasa bolaにもその思想を感じることができる。これらの建築は、西洋のモダニズムや日本のメタボリズムなど、ブラジルの外から輸入された言語と、ブラジルでみられる瓦や路地空間など、土着的な要素を取り入れながらも、建築家それぞれが独自の方法でそれらを統合していた。訪れたこれらの建築はすべて、個々人の建築家がもつ「イメージ」をもとに、時代も国籍も多様な参照対象を“食べ尽くし”、新たな“身体”として統合したもののように思われた。ここでの「イメージ」とは、ブラジルという土地のもつ集団的記憶に支えられながらも、共有可能でユニバーサルな強度をもつものであったように感じる。
グローバリゼーションが進み、多様な関係性が交錯する現代において、時間と空間を超えて世界を捉え、新たな建築として構築する、「食人的参照」というものが可能だろうか?可能であるとしたらどのようなものか?ブラジルの近代美術やオズワルド・ヂ・アンドラーヂの研究者である居村氏をお招きし、建築の参照をテーマに活動する杉崎氏と共にその可能性について議論する。
・居村匠(いむらたくみ)
秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科助手
美学・芸術学。1991年生。2022年、神戸大学大学院人文学研究科修了。博士(学術)。
現在、秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科助手。専門はブラジルのモダン・アート。
【研究会メンバー】

小南弘季
1991年、兵庫県生まれ。東京大学大学院工学系研究科建築学専攻を卒業後、2020年より東京大学生産技術研究所助教。「江戸東京の神社に関する都市建築史研究」によって博士(工学)を取得。都市史を専門とし、現在は低密度居住地域の社会空間史研究、ブラジル近現代建築研究に従事。
共訳書に『EXPERIENCE:生命科学が変える建築のデザイン』(鹿島出版会、2024)がある。
https://sites.google.com/view/brutality-garden/low-density-landscape
寺田慎平
建築家。1990年 東京都 生まれ。2015年 スイス連邦工科大学チューリッヒ校 留学。2016年 クリスト&ガンテンバイン インターンシップ。2018年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 修了。2018-2023年ムトカ建築事務所 勤務。2018年からメニー・カンファレンスを共同主宰。建築とその周辺領域を横断するためのプラットフォームを目指してメディアプロジェクトを展開させながら、2023年に建築レーベルw/(100-1-1000)を杉崎広空と設立、建築にまつわる思索と実践に取り組んでいる。
主なプロジェクトに「w/003 AT」(2024)、「w/005 SM」(2024)など。テキストに「ドナルド・ジャッドと窓」(窓研究所、2024)、「ドールハウスに関するいくつかの覚書」(建築士、2025)など。
http://www.wlllines.net/
印牧岳彦
建築史研究。1990年福井県生まれ。2021年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程修了。博士(工学)。神奈川大学建築学部特別助教。
著書に『SSA 緊急事態下の建築ユートピア』(鹿島出版会、2023)、共訳書にハリー・F. マルグレイヴ『EXPERIENCE 生命科学が変える建築のデザイン』(鹿島出版会、2024)など。
杉崎広空
建築家。1994年宮城県生まれ。2017年ミラノ工科大学留学。2019年筑波大学芸術専門学群卒業(芸術学)。2021年東京工業大学環境・社会理工学院建築学系建築学コース博士前期課程修了(工学)。2021年-東京科学大学(旧東京工業大学) 環境・社会理工学院建築学系建築学コース博士後期過程在籍。2023年w/設立(共同主宰)。
主な作品に「角田の住宅」(2022年、住宅特集2024年5月号)、「TH」(2024年、住宅特集2024年6月号)など。論文に「現代住宅作品における色彩の参照関係と配色意図」、「現代住宅作品におけるかたちの参照関係」など。建築における参照をテーマに設計と研究を行っている。
https://hirotakasugisaki.com/
http://www.wlllines.net/
杉山結子
1993年神奈川県生まれ。
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程在籍。
専門はリナ・ボ・バルディ。
辻優史
写真家。
実空間を用いた表現、建築家とのコラボレーション、展示やポップアップイベントの空間設計なども行なう。
ドイツ在住。
https://www.masafumitsuji.jp/
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photo: ©masafumi tsuji





