多田由美子個展「プウルの傍で」

[開催趣旨]

 描くこと、あるいは書くこと、これらはどちらも手を使った動作の表れです。同じ人物から生まれ出てくるこの二つの表現物には、当然何らかの関係性があり、それがどう関係しているのか、とても興味深いと思っています。それらは併走しているのか、あるいは交差するのか、重なりなのか混在なのか。脳の仕組みを鑑みても、どのような回路で繋がっているのか単純には解明できません。形象としてのドローイングは文字に近づき、流れるような達筆な文字はドローイングに見えることがあります。文字の起源が絵文字だったことを前提にすれば、どこから絵でどこからが文字なのか判別できず、もともとはどちらも伝達の手段です。しかし手段が同じでも、コンテンツは違って見えます。それは時代が進むにつれ、複雑になっているように思えます。

 描くことを紐解く—例えば絵画について考えようとする時に、日用品や既にそこにある形式を借用するなどして、およそ絵画らしくない素材や方法を使って、絵画の要素を還元することによって、絵画を脱構築してみる。絵の具から離れることによって、形や色や素材の抽象的な組み合わせに目が行き、絵画的な思考を整理することができます。それは単なる知的好奇心から出発するのですが、この遠回り、これを大切にしたいと思っています。

 展示のタイトル「プウルの傍で」は中島敦の初期の未発表小説の題名から取りました。中島敦は儒学学者の家系に育ち、植民地だった朝鮮で多感な中学時代を過ごしました。一高卒業後は女子校の教師をしながら、戦前戦中の5年という短い間に30遍ほどの珠玉の作品を残しています。精査された言葉で書くことによって、人間の尊厳を語り、それによって根底から社会を変えようとする姿勢に、喚起されるところはあると思います。

 今回の展示は、中島敦の文章から想を得た絵を描き、中島敦の「プウルの傍で」を参照した小説を書き、それを同一空間に設置することで、「描くこと/書くこと」の意味を探ります。

多田由美子


[開催概要]

WEB​​http://honkbooks.com/poolnokatawarade
会期:2024年10月5日(土)-27日(日)
休業日:火曜日
時間:12:00-20:00
会場:theca(コ本や内)
住所:〒162-0801 東京都新宿区山吹町294 小久保ビル2階
入場料:無料
お問合せ:honkbooks@gmail.com(コ本や)

トークイベント 豊嶋康子×多田由美子

日時:2024年10月26日(土) 17:00-18:30
定員:20名
参加費:無料
予約https://forms.gle/JmAvv4VCbf6RDKqTA


[プロフィール]

多田由美子/TADA Yumiko

画家。描くこと/書くことを巡って試行錯誤中。
1965年 東京都生まれ、宮城県在住  2004年 マケドニア滞在

<主な個展> 
「一挿話」(Gallery TURNAROUND 仙台)2022年
「X氏の最後の晩餐」(ATLIA 川口市)2021年
「STELL LIFE」(SARP仙台)2019年
「雲をつかむできごと」(switch point 東京)2018年

<主なグループ展>
「雲をつかむできごと 石川卓磨+多田由美子」(Gallery TURNAROUND 仙台)2017年
「東北画は可能か?−地方之国現代美術展」(T-ART Gallery 寺田倉庫)2015年
「ことばとかわすことでつくること 小林耕平×多田由美子」(SARP仙台)2013年

<書籍>
林道郎 松浦寿夫責任編集「ART TRACE PRESS 03」(2015年)美術小説Ⅲ掲載


[過去作品]

《菜穂子2》
109.5×78.5cm
ユポ電飾用紙,アクリル
2022年
撮影:小岩勉

《X氏の最後の晩餐の彼方に》
405×190cm
キャンバス, アクリル
2019年
撮影:小岩勉

《テーブル絵画−X氏の最後の晩餐》
600×75cm
ミクストメディア
2019年
撮影:小岩勉